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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)3368号 判決 1977年5月31日

原告 東京都

右代表者交通局長 齋藤清

右指定代理人 柳沢一平

右訴訟代理人弁護士 元木祐司

被告 金津運輸株式会社

右代表者代表取締役 金津宏昌

右訴訟代理人弁護士 本村俊学

主文

被告は、原告に対し金八二万三、二五四円及びこれに対する昭和五〇年五月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決並びに主文第一項につき仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  事故の発生

被告会社の従業員式町哲二(以下「式町」という。)は、昭和五〇年二月二五日午後一〇時一〇分頃、被告会社所有の貨物自動車(足立一一い四一五号。以下「被告車」という。)を運転し被告会社の業務を執行中、東京都江東区亀戸二丁目二七番一〇号先交差点において、後田啓二運転の原告所有の乗合自動車(足立二二か六一一号。以下「原告車」という。)に被告車を追突せしめ、その結果、原告車の後部右側に破損を与えた。

二  責任原因

被告会社は、式町を使用し、式町が被告会社の業務を執行中、前方不注視の過失により本件事故を惹き起こしたのであるから、被告会社は民法第七一五条第一項の規定に基づき、原告が本件事故により被った後記損害を賠償する責任がある。

三  損害

原告は、本件事故により次のとおりの損害を被った。

1  修理費用

原告は、原告車の破損部分の修理のため、金五九万二、六九一円を支出し、同額の損害を被った。

2  休車損害

原告は、原告車の修理に昭和五〇年四月一四日から同月三〇日まで一七日間を要したが、この間一日当たり金一万三、五六二円五三銭の割合による合計金二三万五六三円の営業収入を得ることができず、同額の損害を被った。

四  よって、原告は、被告会社に対し右損害合計額金八二万三、二五四円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和五〇年五月一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁

被告訴訟代理人は、本訴請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一  請求の原因第一項の事実中、被告車が被告会社の所有であること、式町が被告会社の従業員であること及び本件事故が被告会社の業務執行中の事故であることは否認し、その余の事実は認める。なお、本件事故発生日時は原告主張の日の午後一〇時四〇分頃である。

二  同第二項の事実中、式町が前方不注視の過失により本件事故を惹き起こしたことは認めるが、その余の事実は否認する。式町は、昭和四八年一〇月新聞募集により被告と関係ができたもので、同人は、当時既に貨物自動車を所有していたが、昭和四九年八月三一日同車を下取りに出し東京日野自動車株式会社から被告会社名義で被告車を購入し、自ら手形を振出してその責任において割賦金の支払をなすとともに、自ら被告車の自動車損害賠償責任保険契約の締結をし、保険料、燃料費等を負担し、社会保険等も自ら処理し、専ら、被告会社と取引関係のあった東京合板株式会社に車付きで常用され、同社の指示に基づいて貨物の運搬を行っていたものであって、被告会社は、運賃についてのみ、東京合板株式会社に請求しこれを式町に支払っていたにすぎないから、被告会社と式町との間には雇用関係はもとより、何ら現実の使用関係もなく、全く対等の立場にあったというべく、また、本件事故は、式町が東京合板株式会社の社員二名と飲酒しての帰途に惹起したものであるから、被告会社の業務とはまったく関係がない。

三  同第三項の事実は、知らない。

第四証拠関係《省略》

理由

(事故の発生)

一  原告主張の日時及び場所において、式町が被告車を運転中、前方不注視の過失により後田啓二運転の原告所有の原告車に被告車を追突させ、原告車後部右側に破損を与えたことは当事者間に争いがない(なお、本件事故の発生時刻は、《証拠省略》により原告主張のとおりと認める。)。

(責任原因)

二 《証拠省略》を総合すると、被告会社は、本件事故後組織変更をして株式会社となったが、本件事故当時は有限会社組織で、自動車運送事業免許を受け、貨物自動車三〇数台を擁し一般貨物自動車運送事業を営んでいたものであるが、うち数台は、右免許を有せず、かつ、従業員でもない運転手らに対しその運送事業用の自動車登録番号標を貸与し、被告名義で運送業をなすことを許容(いわゆる名義貸)していたものであり、式町は右免許を有していなかったが、昭和四八年七月頃貨物自動車一台を購入し、同年一〇月二〇日頃から被告会社から名義貸を受け、被告会社の顧客先である東京合板株式会社の貨物を運搬するようになり(同社以外の貨物の運搬は殆ど扱っていなかった。)、その業務形態は同社の係員小安幹夫の指示に従って運搬し、貨物自動車の保管は自己の責任においてなしていたものであるところ、昭和四九年九月、従来使用の貨物自動車を被告車に買い換えるに当たり、購入先の東京日野自動車株式会社に対する割賦代金の支払は式町振出の約束手形によるが、買主名義は同社の要請により、また、被告会社の許諾のもとに被告会社名義とし(なお、本件事故時、残債務があったため所有権は、なお東京日野自動車株式会社に留保されていた。)、自動車登録原簿にも使用者として被告会社名が、使用の本拠の位置として被告会社の所在地が記載され、自動車損害賠償責任保険及び自動車保険の締結に当たっても被保険者を被告会社とし(保険掛金は、式町が直接支払っていた。)、また、被告車の車体には「金津運輸(有)」と被告会社の商号が大書されていたこと、被告会社と式町との間には雇用関係はなかったが、被告車の運行に要する燃料等は被告会社の指定する燃料店で補給し、被告会社が一括して支払っており、東京合板株式会社に対する運送代金の請求は、被告会社が式町の作成し毎月二〇日提出する日報に基づいてなし、被告会社は毎月二五日右会社から受領した運送代金の中から事務手数料の名目でその一割の名義貸料を控除し、更に、燃料費等を差し引いて残額を式町に支払っていたこと、本件事故は、式町が東京合板株式会社から帰宅途中同社の従業員である前記小安及び佐浦正一を接待し、ともに飲酒後、小安らを同乗させ帰宅する途上において発生したものであり、右会社の貨物の運搬とまったく無関係ではなかったことが認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定の事実によれば、被告会社は、その営む貨物自動車運送事業中、顧客である東京合板株式会社からの継続的受注分につき、車両持込みの運転手である式町を通じその業務を遂行していたものであって、式町の側からみると、同人の仕事はほぼ被告会社から受注した東京合板株式会社関係の仕事のみであって、それも被告会社から名義貸を受け、かつ、その信用を利用し被告車を購入することによってはじめて可能になっていたといいうるのであり、更に、前記認定に係る燃料の調達方法、運送賃支払の方法等被告会社と式町の間の密接な関係をも総合すると、被告会社は式町に対しその雇用運転手と類似の実質的な指揮監督を及ぼしていたものと認むべく、また、右事実に前記認定の本件事故発生前の運転経緯等を総合すれば、本件事故は、客観的外形的にみて、被告会社の事業の執行につき生じたものと解するのが相当であるから、被告会社は民法第七一五条第一項の規定に基づき原告の被った後記損害を賠償する責任がある。

(損害)

三 《証拠省略》を総合すると、原告は本件事故により破損した原告車のラジエーター、後部窓等の修理費用として金五九万二、六九一円を要したこと、右修理のため原告主張の期間を要し、この間原告車は稼働しえなかったところ、燃料油脂費及び償却費等の稼働に直接必要な経費を差し引いた原告車の収入は一日当り金一万三、五六二円五三銭であり、原告は右割合により右修理期間中合計金二三万五六三円の得べかりし収入を失ったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(むすび)

四 してみれば、被告は、原告に対し、本件事故に基づく損害賠償金八二万三、二五四円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和五〇年五月一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべく、原告の本訴請求は、全部理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武居二郎 裁判官 島内乗統 丸山昌一)

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